お中元や暑中見舞いの話をしていたら、知人から「目上の人には”暑中御伺”がマナー」とお叱りを受けました。
噂には聞いて(目にして)おりましたが、まさかそんな指摘を受けることがあるとは思っておらず、恥ずかしながら調べてみました。時代とともに、言葉遣いは変わりますが、2024年時点でわかる範囲の情報や世間のリアルをまとめておきます。
暑中見舞い・暑中お伺いとは
まずは、言葉の整理から。
暑中見舞いとは
「暑中見舞い」は、猛暑期に普段なかなか会えない方やお世話になった方の健康を気遣い、壮健に過ごして欲しいとの思いを届ける夏の挨拶状です。近況報告などをかわす意味合いもあります。
この習慣は、江戸時代中期(18世紀頃)に生まれたといわれています。
元々、夏の暑さを乗り切るための安否確認の意味がありました。「見舞い」という言葉が示すように、相手の健康を気遣う習慣から発展したとされています。
明治時代、郵便制度の発達により、遠方の方にも挨拶状を簡単に送ることができるようになりました。
庶民も暑さを見舞う挨拶を手紙で出すようになり、大正時代に現在の「暑中見舞い」という挨拶状の形が定着したようです。
祖霊など神へのお供え物と、商人たちの贈答習慣から発展した、「日頃の感謝」の気持ちを贈る「お中元」と、暑い時期に相手の健康を気遣い挨拶文や品物を送る「暑中見舞い」とで、現代でも使い分けされています。
暑中伺いとは
「暑中伺い」は、 開始時期や由来は不明です。ビジネスマナーが発達した明治時代以降に広まったとも言われています。
暑中見舞いと暑中お伺いの使い分け
「暑中御伺」を使う相手は?
「お伺い」という言葉自体は、相手の様子を尋ねる、訪問するという意味を持つ敬語表現の一つです。
これが季節の挨拶である「暑中見舞い」と組み合わさり、より丁寧な表現として「暑中御伺」が使われるようになったと推測されます。
【暑中御伺の対象とされる相手】
- 目上の人
- 取引先や顧客
- 公的な関係にある人
- 特に敬意を表したい相手
主にビジネス文書や公的な場面で使用されることが多く、私的な関係よりも、フォーマルな関係性において適切との考え方もあるようです。
見舞い・伺い 意味は同じなの?
「見舞う」と「伺う」について国語辞典には複数の意味がありますが、今回の内容に関係するのは次のようなものがあります。
・病気の人や災難に遭った人を訪れ慰めたり、訪問できない場合に文書等で安否を尋ねる
・訪問する、挨拶に行く
・聞く、尋ねる、問う、訪れる、訪問するの謙譲語
「見舞う」という言葉には相手の安否を尋ねたり健康を気遣う意味があるように、「暑中見舞」には、「暑い季節になりましたが、如何お過ごしでしょうか。体調を崩していたりしませんか。」のような意味が込められています。
「伺う」には、相手を気遣うような意味合いは含まれません。
そのため、「暑中お伺い」では、「暑い中、伺います」ということになり、何を伺うのかが分からない、あるいは訪問することの連絡になってしまいます。これが「暑中如何お過ごしかとお伺い申し上げます」までの文章であれば、意味が理解できるのですが。。
加えて、「お見舞い」という表現が目上から目下への表現であるという根拠も、意味合いも辞書的には何もありません。
「お伺い」は二重敬語?
「伺う」は、上述の通り謙譲語です。「お伺い」は二重敬語にあたりますが、「習慣として定着している」と認められています。
敬語の指針(文化審議会)2007年(平成19年)文化庁
【習慣として定着している二重敬語の例】
・(尊敬語) お召し上がりになる,お見えになる
・(謙譲語Ⅰ)お伺いする,お伺いいたす,お伺い申し上げる
「見舞い」を使っても「お伺い」を使わない例
自然災害等のあった際、「災害見舞」などをお渡しすることもありますが、このような場合には「災害御伺」などの表現はありません。
また、広告や各社サイトでは、季節の挨拶として「暑中お見舞い申し上げます」体裁の広告や挨拶が掲載されます。企業側が上で、顧客や消費者は完全に下に見られていることになり、マナー講師などが最初に噛みつきそうなところですが、ここの指摘も目にしたことはありません。
そして、上下関係・相手への敬意を含めて正しい日本語表現の代表である皇室記事でも「お見舞い」は使われています。
皇太子ご夫妻は1日午前、東大病院(東京・文京)を訪れ、心臓の冠動脈バイパス手術を終えて、リハビリのため入院中の天皇陛下を見舞われた。
2012年3月1日 日本経済新聞
皇太子さまと秋篠宮さまは19日夕方、心臓の冠動脈のバイパス手術を受けた天皇陛下をお見舞いされた。
2012年2月19日 日テレNEWS
天皇陛下(現 上皇陛下)を皇太子殿下が「お見舞い」されるのは、天皇陛下の健康を気遣う意味があるからで、この場合に「伺う」といった表現はありえません。
皇太子さまよりも陛下の方が、明らかに上の立場ではありますが、「見舞う」という言葉を使います。
「暑中お見舞い」「暑中お伺い」のリアル
季節の挨拶状「暑中お見舞い」のリアル
Amazonなどのオンランストア、郵便局のオンラインショップ、ハガキ印刷会社などのテンプレートも確認しましたが、「暑中見舞い」が基本です。
日本郵便のプリントサービスに至っては、印字してあるものは「暑中/残暑お見舞い」のみ。一部「夏のご挨拶」というものもありますが。。フォーマルカテゴリでも、「お見舞い」を使用しており、「お伺い」は2024年7月現在では見当たりません。
季節の贈り物「暑中御見舞」のリアル
お中元のように、季節の挨拶として品物を送る場合には、熨斗紙(掛け紙)をかけます。
百貨店などを中心に、「御見舞」と「御伺」両方の熨斗紙(掛け紙)が用意されているようです。
「暑中御見舞」「暑中御伺」のし紙(熨斗紙・掛け紙)は?
のし紙(熨斗紙・掛け紙)は、「暑中/残暑見舞」も「暑中/残暑御伺」も考え方は同じです。
- 通常の場合:熨斗あり、紅白の水引、蝶結び(花結び)
- 海産物・肉類などの生鮮食品や海産加工品:熨斗なし、紅白の水引、蝶結び(花結び)
- 喪中の場合:白無地、熨斗なし、水引なし
マナーとして、「この場面ではこうすべきもの」と主張する方も見受けられますが、言葉も作法も時代と共に変化したり、地域によって異なるものもあります。
明らかに、日本語として、作法として、慣習としておかしいのであればともかく、明確な根拠がないものにまで「これがマナー、あまたは間違っている、失礼だ」とするのも、いかがなものかとは思います。
そもそもマナーとは、、「相手を嫌な気分にさせず心地良い時を過ごしてもらう」という配慮から生まれたものなのですから、、