介護福祉士の経過措置〜国家試験不合格でも登録できる・いつまで・外国人優遇/日本人差別は本当か、実務者研修での取得要件
介護福祉士の経過措置について、まとめて解説します。
2025年6月12日の読売新聞の『介護福祉士の国家資格「不合格でもOK」特例適用8000人超、外国人が中心…継続に賛否』という記事により、SNS上では外国人優遇や日本人逆差別、事故が増えるなど、誤解も含めた意見が散見されています。

【要約】
介護福祉士の国家資格は2017年度から試験合格が必須となりましたが、人手不足対策として「特例措置」を導入。これは、養成施設卒業者が試験に不合格でも、5年間は暫定的に介護福祉士として働け、継続就業で無期限の資格を得られるものです。
特例措置は、当初2021年度でしたが、2026年度卒業者まで延長。
現在、累計8,000人以上の適用者がおり、そのうち5,000人以上が外国人留学生。彼らは言葉の問題で試験合格率が低い傾向にあります。
この特例措置の継続については、「人材確保に不可欠」との賛成意見と、「国家資格の価値を損なう」との反対意見が対立しており、今後の動向が注目されます。
介護福祉士の経過措置とは
介護福祉士の経過措置とは
介護福祉士の経過措置とは、2026年度(令和8年度)介護福祉士養成施設の卒業生までは、国家試験不合格や未受験でも「介護福祉士」として5年間登録できる措置です。
その後は、要件を満たすことで、期間の定めのない「介護福祉士」として登録することが可能です。

介護福祉士の経過措置が設けられた経緯
介護福祉士の資格は、かつては養成施設を卒業すれば国家試験なしに資格取得が可能でした。
2017年度(平成29年度)からは、専門職としての質の向上などを目的として、養成施設卒業者にも国家試験の合格が義務付けられることになりました。
しかし、介護人材の確保という喫緊の課題や、外国人留学生の介護福祉士養成施設への入学増加といった状況を鑑み、一定の期間、国家試験合格を猶予する「経過措置」が設けられました。
介護福祉士の経過措置の対象者
2017年度(平成29年度)〜2026年度(令和8年度)介護福祉士養成施設の卒業生が対象です。
介護福祉士の経過措置での暫定的な資格付与
上記期間に養成施設を卒業した者は、卒業後5年間暫定的に介護福祉士の資格が与えられます。
つまり、卒業後5年間は、国家試験の合否にかかわらず(合格していなくても、あるいは受験していなくても)、介護福祉士として登録し、働くことができる特例措置なのです。

業務内容は同じでも、介護福祉士の資格保持者と資格なしでは、スタート時点から待遇が異なります。また、外国人留学生の場合は、介護施設への就職、つまり就労ビザの取得が容易になります。
*介護福祉士資格保持でなくでも、介護分野の特定技能1号ビザを取得すれば就労ビザは取得できますが、ハードルがあがります。
特例措置での介護福祉士資格の保持条件〜5年後は
この特例措置は、期間内に福祉士養成施設を卒業した者が対象です。
有効期限(卒業年度の翌年度の4月1日から起算して5年間)が切れるまでに、以下のいずれかの要件を満たすことで、その後も引き続き介護福祉士の資格を保持することができます。


- 介護福祉士国家試験に合格
- 原則として、卒業後5年間継続して介護等の業務に従事
「原則として」とは、やむを得ない理由で一時的に介護業務を中断した場合でも、継続とみなされる、あるいは期間の延長が認められる場合があるからです。
例えば:
- 産前産後休業
- 育児休業
- 介護休業
- 業務災害や通勤災害による休業
- 激甚災害・災害救助法適用災害による休業
- 倒産・解雇等による休業
- その他やむを得ない理由による休業
上記のような休業期間は、5年間の継続従事期間の計算から除外されたり、資格登録の有効期限が延長されたりする場合があります。その場合、自動的に認められるわけではありませんので、申請や証明書の提出が必要です。
介護福祉士の経過措置はいつまで
この経過措置は、当初2022年度(令和4年度)から養成施設卒業者も国家試験合格が完全に義務付けられる予定でした。しかし、介護業界の人手不足や外国人留学生の増加から、上記の経過措置が2026年度(令和8年度)卒業生まで延長されました。
2025年6月現在、2027年度(令和9年度)の卒業生からは、介護福祉士を名乗るには国家試験の合格が義務付けられます。



人手不足や外国人留学生が多いからといっても、経過措置10年は長すぎますよね…
「質の向上のため」の国家資格は、もうほとんど意味をなしていないのが現状です。
経過措置の対象は外国人だけで日本人差別なのか
SNS上では、外国人優遇措置などと言われていますが、この経過措置には国籍は関係ありません。
事実、経過措置開始から7年間で累計8,000人以上の適用者がいますが、外国人留学生がそのうち5,000人以上を占めています。残り3,000人程度は、日本人や留学以外の在留資格者です。例えば、永住者、日本人の配偶者など。
SNS上では、日本人は不合格なら登録もできないなど言われていますが、それは間違い。日本人が差別されていることはありません。
経過措置により真面目に勉強した日本人が損をするのか
結論になりますが、真面目に勉強した日本人が損をするわけではありません。
介護福祉士の国家試験は、2016年度から合格率が上がり70〜80%程度で推移しています。
決して低い合格率ではない中、2020年度以降は毎年1,000人台の外国人留学生が経過措置を利用して登録している(参照:先の読売新聞の記事)ことから、言葉の壁がある外国人留学生にとってはありがたい制度であることは確かでしょう。
言い方を変えれば、
- 不合格でも介護福祉士と登録できる
- 外国人が就労ビザをとりやすくなる
- 介護現場で働く人材を確保しやすくなる
という、雇用主側が得する制度なのです。
ただ、特例措置として資格を保持できる期間は5年です。その期間に国家試験に合格するか、5年間継続して勤務しなければ、その後が資格保持者として働くことはできません。
キャリアアップするには、介護福祉士として働き続け、実務経験を積む必要があります。スタートのハードルが下がっただけですから、真面目に勉強した学生が損することにはならないのです。



養成施設卒業で自動的に5年間は「介護福祉士」として登録できるのですから、真面目に勉強したら損だ!と思うのであれば、国家試験を受けなければいいだけの話。
介護施設等へ就職して、5年の継続勤務をすればいいだけです。
新卒から5年なんて、キャリアアップが始まる頃です。実務経験を積めば、卒業時に合格したかどうかなど、どうでもいい話になります。
あえて言うなら、本人の自尊心の違いとかですかね…




介護福祉士 経過措置の問題点
経過措置の延長については、以下のような問題点が指摘されています。
介護福祉士の質の低下の懸念
国家試験の合格が義務付けられない期間が続くことで、介護福祉士全体の質の向上という当初の目的が達成されにくくなる可能性があります。
特に、教育・知識・介護技術に関する問題が、介護現場で起こる問題の要因として挙げられており、国家試験による専門知識の証明が重要視されています。



質の向上を目的に、国家資格化したのに、不合格でも登録できる特例措置が10年も続いています。本当に質の向上を目的とするのであれば、10年の猶予期間は長すぎますね。
国家資格の価値の希薄化
国家試験の合格が必須でない状態が続くことは、介護福祉士という国家資格の価値や専門性を低く見られてしまう可能性もあります。



介護施設では、「介護福祉士」の常勤が必要なイメージがありますが、人員配置基準として義務付けられているものではありません。介護職員は、初任者研修等を修了していればいいのです。
資格保持かどうかよりも、常勤(正規職員)かパートかで、業務や作業をわけている職場の方が多いかと思います。
養成施設の経営への影響
経過措置が終了し、国家試験合格が義務付けられることで、特に外国人留学生の入学者が減少するのではないかという懸念があり、養成施設の経営に大きな影響を与える可能性があると考えられています。



10年も特例措置がダラダラ続いている原因はの1つはコレでしょうね。
介護人材確保への影響
「介護福祉士」の資格取得をすれば、外国人留学生が介護関連での就労ビザを取得しやすくなり、雇用側も雇える人材が増えることになります。
介護福祉士国家試験の合格を義務付けると、日本人学生にはほとんど影響はありませんが、外国人留学生には影響があります。
これは、就労ビザの取得に関わるからです。国家試験に合格すれば、就労ビザは取得しやすくなりますが、不合格であれば就労ビザ取得のハードルが上がります。
結果、介護の現場で働くことのできる外国人が減ることになり、人材確保へ影響がでることは容易に想像がつきます。



結局、「質の向上」を謳ってはいますが、国家資格はなくても現場に影響はありません。
国家資格ホルダーという自尊心を持たせたやりがい搾取のようなものですね。
介護福祉実務者研修修了者は対象なのか
介護福祉実務者研修修了者は、上記の経過措置の対象ではありません。
経過措置は、あくまで「介護福祉士養成施設を卒業した者」に対して適用されるものです。
実務者研修は、介護福祉士国家試験の受験資格の一つであり、養成施設とは異なるルートです。
実務者研修修了者が介護福祉士になるための要件
この経過措置は、実務者研修修了者は対象外です。
介護福祉実務者研修を修了した者が介護福祉士になるためには、以下の要件を満たす必要があります。


【実務者研修修了者が介護福祉士になるための主な要件】
- 実務経験
介護等の業務に3年以上(1,095日以上)従事し、かつ従事日数が540日以上であること - 介護福祉実務者研修の修了
介護福祉実務者研修を修了していること
取得している資格によっては、実務者研修の一部科目が免除されることもあります - 介護福祉士国家試験の合格
介護福祉士国家試験に合格すること



経過措置は、あくまで養成施設の卒業生のみが対象です。







