【遺言書】自筆証書遺言書保管制度を利用してみた①~3,900円で相続トラブルも面倒も予防可能か徹底解説

2020年(令和2年)7月から、自筆証書遺言の保管制度が始まりました。

自筆証書遺言の保管制度」とは、簡単に言えば自筆で記載した遺言書を法務局で預かってもらえる制度です。

今回、私たちも「自筆証書遺言の保管制度」を利用することにしました。

決めるまでには、その制度がどういうものか、私たちにとって必要なことなのか、本当に必要なことは何なのか、、をかなり調べました。記録も含めて記しておきますので、検討中の方は参考になさってみてください。

目次

アラカン子なし夫婦に遺言書は必要か?

早々の結論ですが、子なし夫婦にこそ遺言書は必要です。

遺産分割で揉めるほどの財産がある方はもちろんですが、私たちのようにさほど資産がなくても、片方が亡くなれば面倒な手続きが山のようにあります。

例えば、「銀行口座」。

口座名義人が亡くなると、遺族や遺言執行者等が預金の相続(払戻し等)の手続を行う必要があります。その手続きは、面倒です。

遺言書がある場合と、ない場合で異なりますが、一般に次のような書類が必要です。

遺言書がある場合の一例

  • 遺言書
  • 検認調書または検認済証明書
  • 被相続人(故人)の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 遺言執行者の印鑑証明書
  • 遺言執行者の選任審判書謄本

遺言書がなく遺産分割協議書がある場合の一例

  • 法定相続人全員の署名・捺印がある遺産分割協議書
  • 被相続人(故人)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の印鑑証明書

遺産分割協議書がない場合の一例

  • 被相続人(故人)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の印鑑証明書

遺言書の内容や種類等によっても異なりますが、いずれにしても手続きは面倒です。逆にあまりに簡単でも、それはそれで問題ですので、仕方がありません。

もちろん、それなりの資産であっても、それほどでもない資産であっても、手続きは同じです。

しかも、口座数分手続きがありますし、銀行口座以外の資産や、仕事上個人名義で契約しているものの名義変更などの手続きもあります。

仮に私が先に他界すると、今のところ母親が健在ですから、夫と母親が法定相続人です。母親がしっかりしていれば、夫と母親の戸籍謄本や印鑑証明書をすぐに揃えることもできますが、母親が痴呆症になったり、高齢で入院などしたら、手続きは面倒になります。

私の他界を悲しんでくれているであろう夫が、大した資産もない私の銀行口座やその他各種契約の解約/相続/名義変更をするために、高齢の母とやり取りをし、手続きに翻弄されることを考えるだけで悲しくなってきます。

遺言書があれば、私の母が遺留分を請求しなければ、手続きは多少なりともスムーズに進みます。大した資産がないからこそ、遺言書を残すべきと判断したのです。

母が遺留分を請求するとは思えませんが、遺留分侵害額の請求したらそれは権利ですから仕方がありません。夫と母で、遺産分割協議書なりを作成し、必要書類を揃えてもらうしかありません。

遺言書というと大袈裟なもののようにも感じますが、自分の他界後の煩雑な手続きをいくらかでも軽減させることもできます。何か思い入れがある場合には、意思を他者に伝えることもできます。

今は、簡単に費用もかけずに作成することもできますし、何回でも変更できますので、後回しにしないでさっさと取り組んでおくのがオススメです。

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遺言書はざっくり3種類

遺言書はざっくり3種類。「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があり、15歳以上の場合は自分の意思で作成可能です。

それぞれの特徴を整理しておきます。自筆証書遺言は、個人保管と法務局保管で異なります

スクロールできます
筆証書遺言筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
保管個人保管法務局保管原本は公証人が保管個人保管
署名・押印本人の自著押印本人の自著押印本人・公証人・証人本人・公証人・証人
作成方法自由法務局の指定あり公証人立会公証人立会
本文全文自筆
財産目録はコピーやPCでの作成可能
全文自筆
財産目録はコピーやPCでの作成可能
公証人が作成氏名は自筆
それ以外はパソコンなどで作成可能
家庭裁判所の検認必要不要不要必要
証人不要不要証人2人以上証人2人以上
費用なし申請費用3,900円作成費用 10万円程度〜
保管費用
遺言執行 30万程度~
公証役場手数料11,000円
証人の費用別途
紛失、盗難リスクありなしなしあり
改ざんのリスクありなしなしなし
無効の可能性ありありなしあり
その他特徴・遺言書を作成した事実と内容が秘密にできる
・作成に費用がかからず、いつでも手軽に書き直せる
・発見されないリスクがある
・遺言の内容を自分以外に秘密にできる
・作成に費用がかからず、いつでも手軽に書き直せる
・遺言書の存在が明確にできる
・発見されないリスクが低い
・住所変更、閲覧などそれぞれに所定に費用がかかる
・不備がなく、最も安全で確実
・字が書けなくても作成できる
・自宅や病院でも作成可能
・変更などはその都度費用発生
・遺産額や相続人の人数などによっても費用が異なる
・遺言書の存在が明確にできる
・遺言内容を秘密にできる
・変更などはその都度費用発生
・公証人は遺言書の存在を証明するだけで、遺言内容を証明するわけではない

公正証書遺言
・書き方などにほぼ間違いがない
費用がかかるのがネック
資産が多い、不動産なども含め遺産分割が複雑、相続人が多いなどの場合には、迷わず弁護士等に依頼するべきでしょう。

法務局の制度
資産が複雑ではない
自分で字が書ける
管轄の法務局に本人が出向ける状態 なら便利です。

自筆証書遺言書保管制度のメリット・デメリット/注意点

自筆証書遺言書のメリットデメリット/注意点も簡単にまとめておきます。

メリット1. 法定相続人以外への相続の意思を残せる

配偶者や両親、祖父母、子、孫といった法定相続人以外への相続の意思を明確に残すことができます。

内縁関係者、法的に家族ではないパートナーへの遺産分割、特定の団体への寄贈などを、自筆で記載することで遺言書として有効になる可能性が高いです。

法務局では、遺言書の内容確認やアドバイスはありません。内容等によっては、認められない/無効となる可能性もあります。

メリット2. 費用が安い

自筆証書遺言書
自分で書かなければならない手間がある
法務局への申請手数料3,900円
・遺言書の内容変更は再申請が必要、申請手数料3,900円
・住所等の変更は手数料不要
閲覧などの手数料は毎回2,000円以内

弁護士などに頼む「公正証書遺言
間違いのない遺言書を作成
・作成だけでも軽く10万円以上
・資産が多ければ多いほど、作成費用が上がるのが一般的、数十万円かかるのも普通
・変更などはその都度費用発生

メリット3. 形式不備による無効を予防

法務局による保管制度
書面としての初歩的なミスが避けられるため、形式不備による無効を予防することができます。
・遺言書の形式を確認
・公的な身分証での本人確認
・内容の確認はない

自筆証書遺言書個人保管
書式が要件を満たさず無効になる可能性もある
・本人確認がない
・内容の確認もない

メリット4. 遺言書の偽造や紛失、盗難、隠匿、改竄を予防

保管制度を利用した場合、自筆証書遺言書の原本は法務局で保管されます。

そのため、偽造、紛失、盗難、隠匿、改竄(かいざん)されるリスクから解放されます。

メリット5. 本人が保管申請をした証拠が残る


自筆証書遺言書の保管申請は、本人が法務局へ出向く必要があります。

現地で法務局の担当者が身分証と住民票とで本人確認を行います。

そのため、少なくても「本人が保管申請」した事実は担保されます。

「本人が遺言証を作成した」事実の担保にはなりません。

メリット6. 遺言書を見つけてもらえないリスクを予防

自筆証書遺言書保管制度では、遺言書が見つからないリスクを予防できます。
遺言者の死後、法務局で所定の手続きをすることで、遺言書の有無を確認できる
・遺言者の申請があれば、遺言者の死後、法務局から通知が来る
・原本は法務局で保管
・画像データは、全国の法務局(遺言書保管所)で確認できる

メリット7. 家庭裁判所の検認が不要

法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言書は、家庭裁判所による検認が不要です。

法務局で保管しているため、偽造や改竄の可能性がないためです。弁護士になどにより作成された公正証書遺言と同等の扱いになります。

注意点1. 遺言証が無効になる可能性はゼロではない

法務局で保管申請する際に、形式の確認はされますが、内容の確認はありません。そのため、遺言書として無効になる可能性はゼロではありません

無効は避けたい場合には、弁護士などに作成依頼し、公正証書遺言にするしかありません。

注意点2. 法務局による遺言書の作成支援はない

法務局による、遺言書作成の協力・支援/アドバイスはありません

法務局のサイトにも書き方の例などはありますし、形式的な質問には答えてもらえますが、遺言内容や本文に関しては、自分で調べ、確認し、自筆で記入し、作成する必要があります。

遺言書の書き方や内容について相談がある場合には、弁護士などの専門家に相談する必要があります。

注意点3. 本文は自筆

遺言書の本文は、自筆で書かなければなりません。怪我や病気で、自分で文字が書けない場合の代筆は認められていません

何らかの事情で自分で書けない場合には、弁護士などに作成依頼し、公正証書遺言にするしかありません。

注意点4. 代理や出張での保管申請は不可

自筆証書遺言書を法務局で保管してもらうための申請は、遺言者本人が保管申請先の法務局まで出向くこと必要があります。

たとえ、弁護士や配偶者などの家族であっても、代理申請は認められていません。また、法務局の担当者が、病院などに出張して保管申請を受け付けることもありません

何らかの事情で自分で申請できない場合には、弁護士などに作成依頼し、公正証書遺言にするか、秘密証書遺言で公証人に依頼する方法があります。

自筆証書遺言書の保管制度利用する手順

STEP
自筆証書遺言を作成する

法務局のサイトで最新情報、要件を確認し、遺言書を作成します。

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STEP
保管申請先の法務局を決め、予約する

申請できる法務局(遺言書保管所)は、次のいずれかを担当する法務局(本局と各支局)に限られています。

  • 遺言者の住所地
  • 遺言者の本籍地
  • 遺言者の所有する不動産の所在地
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STEP
保管申請書を作成する

法務局のサイトから申請書をダウンロードできます。記入例もありますので、その通りに記入し持参します。

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STEP
保管申請に出向く

必要な書類を持参し、申請します。1時間程度みておくといいでしょう。

  • 遺言書
  • 保管申請書
  • 住民票の写し等
  • 顔写真付きの官公署から発行された身分証明書
  • 手数料
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STEP
保管証を受け取る

書類確認後、法務局(遺言書保管所)で画像データ化します。データ化終了後に、保管証が渡されます。

保管証はなくしても、遺言書の保管は無効にはなりません。
保管証に記載されている「保管番号」がわかれば、以降手続きが必要な時に便利という程度です。保管証の他に、保管番号は控えておくのがオススメです。

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STEP
【相続発生時】相続人側の手続き
  1. 遺言書保管事実証明書の交付請求をする
  2. 遺言書情報証明書の交付請求をする
  3. 全ての相続人に遺言書が保管されていることが通知される
  4. 遺言書を執行する

保管時の申請内容にもよりますが、全ての相続人に法務局から通知してもらうことができるので、連絡も簡単です。ただ、相続人の住所が変わっているなどすると、うまくいかない可能性はありますが、、

交付請求なども、1件2,000円もしませんので、費用負担もほぼないに等しいレベルです。

法定遺留分はどうなる?

法定相続人には遺留分という権利があります。

遺言の内容がどのようなものであっても、最低限保障される相続分で、遺言の内容よりも優先されます。

遺留分を侵害しない、あるいは揉めないように、遺産分割する遺言書にすればいいのですが、心配な場合には弁護士などの専門家に相談するに限ります。

遺留分侵害の請求ができるのは、故人の配偶者、直系尊属(両親や祖父母)、直系卑属(子や孫、ひ孫)です。故人の兄弟姉妹、甥、姪には、遺留分はありません。

結局、自筆証書遺言書保管制度を利用する方がいいのか?

上述のように、仕組みやメリット、注意点などを確認した結果、私たちは夫婦それぞれで、自筆証書遺言書保管制度を利用することにしました。

遺産分割で揉めるような心配はしていませんが、手続きの簡略化が目的です。気が変わっても、何回でも変更できますので、気楽なものです。

自筆証書遺言書保管制度が向いている人

他にも、次のような方には自筆証書遺言書保管制度の利用が向いていると思います。

  • 子や孫などの直系卑属がいない
  • 資産が複雑でない
  • 特定の遺産に関しては、相続人を決めておきたい
  • パートナー、内縁など法定相続人以外に残したい
  • 各種団体に寄贈したい
  • 身寄りがいないので、財産は全て処分し、残りは国庫帰属にしたい

相続人が複数いる場合で、特定の不動産を特定の相続人に遺したい場合、例えば「家は妻」「畑は長女」などには、便利そうですね。

遺言によりご自身の財産をどのように分配、あるいは処分していくかをご自身で決め、明確に意思表示することは、自分のためにも、大切な誰かのためにも、重要なことです。

無効にならない確実な遺言書を作成した場合には、弁護士などに「公正証書遺言」を作成してもらいましょう。

なお、今回制度を利用するにあたり、弁護士事務所が開設しているようなサイトもずいぶん確認しました。

丁寧に説明しているようで、中途半端に「自筆証書遺言書保管制度」の不安点を強調しているものも多数あります。

「自筆証書遺言書」を個人保管すると、上述の通り偽造、紛失、盗難、隠匿、改竄(かいざん)されるリスクがあり、家庭裁判所での検認も必要です。

法務局で保管する制度を利用すれば、偽造、紛失、盗難、隠匿、改竄のリスクはありません。リスクがないから、家庭裁判所での検認も不要です。

明確なことであるにもかかわらず、弁護士事務所の運営するサイトの解説では、個人保管と法務局保管をわけずに「自筆証書遺言書」で一括りにし、法務局保管でも大きなリスクがあるような雰囲気になっているのです。

もちろん、明確に分けていないだけで、間違っているわけでも、嘘をついているわけでもありません。この辺りは、さすが弁護士事務所です。

それが、意図的なものなのか、たまたまなのかはわかりません。弁護士事務所にとっては、オイシイ仕事が減ることにつながりますので、仕方がないとはいえ、イヤらしさは感じますね。。

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