自筆証書遺言書保管制度を利用する際の遺言書の書き方や注意点、理解しておくべきことについて、まとめておきます。
できるだけ簡単に簡潔に遺言書を作成したかった私たちですが、遺言書の書き方にはわかりにくい表現や、自分たちには関係のない複雑な書き方の解説が多く、必要な情報がまとまっていなくて、随分といろんなサイトの解説を読み、調べました。
最終的には、極めて簡潔な遺言書を作成しましたが、それに辿り着くまでに調べたことなどを、わかりやすく記しておきます。
自筆証書遺言書に向いているのか再度確認
簡単な遺言書であれば悩む必要はありませんが、自筆証書遺言書を書く前に、再度ご自身に向いているか確認し、考えてみることをオススメします。
自筆証書遺言書の保管制度でできること
自筆で記載した遺言書を法務局に保管することのできる、「自筆証書遺言の保管制度」では、保管以外にもできることがあります。
法務局(遺言書保管所)に、自分で作成した遺言書を預けること
所定の手続きを踏めば、遺言書を法務局(遺言書保管所)に保管してもらい、家庭裁判所の検認不要で遺言を執行してもらうことができます。
法務局(遺言書保管所)に預けた遺言書を自分が見ること
作成した遺言書の控えをとっておけば、見る必要などないのですが、法務局(遺言書保管所)で保管している自分の遺言書を自分が見ることができます。
- 画像化した遺言書:手数料1,400円
- 遺言書の原本:保管申請した法務局(遺言書保管所)、手数料1,700円
預けた遺言書を撤回し返還してもらうこと
預けた遺言書は、いつでも撤回することができます。手数料は不要。
保管申請を撤回し、個人保管することもできますし、何度でも内容変更することも可能です。
預けている遺言書の内容を変更したい場合は、一度撤回の上、再申請します。保管申請手数料3,900円が再度必要です。
いずれも、保管申請した法務局(遺言書保管所)で手続きをします。
遺言書保管後の遺言者や受遺者等・遺言執行者等に関わる事項の変更
- 遺言者自身の氏名,出生の年月日,住所,本籍(又は国籍)及び筆頭者
- 遺言書に記載した受遺者等・遺言執行者等の氏名又は名称及び住所等
遺言者自身に関わるもの、受遺者等・遺言執行者等に関わるものでは、変更の届出の際に必要となる書類が異なります。
全国の遺言書保管所(法務局の本局・支局)、もしくは必要書類の郵送で変更手続きができます。手数料は不要。
自筆の遺言書が向いてないと思われる人
自筆で遺言書を記載すること自体は難しくありませんし、法務局の保管制度を利用するのも費用はさほどかかりませんので、誰にでもできる方法です。
ただ、複数の不動産や金融資産、絵画や骨董品などを持っていて、法定相続人も複数いるのであれば、弁護士などの専門家に頼んで「公正証書遺言」を遺すことをオススメします。
分けるものや分ける相手が多いほど、面倒なことが起こりやすくなります。せっかく自分の意思を残しても、無効になったり、遺留分請求などでゴタゴタする可能性を避けるためにも、「数」が多い人は向いていないかもしれません。
自筆の遺言書が向いていると思われる人
財産の「数」が少なく相続人も少ないのであれば、遺言書を手書きし保管制度を利用することを検討してもいいと思っています。
遺言書に記載する内容も少ないですし、法定相続人が少なければ少ないほど、トラブルにはなりにくいからです。
子なし夫婦やおひとり様だと、遺留分のある相続人は限られてきますので、トラブルにはなりにくそうです。
自筆の遺言書で絶対に守らなければならない書き方
自筆の遺言書を、法務局(遺言書保管所)に保管してもらい、有効なものにするには、様式のルールと書き方のルールがあります。
自筆証書遺言の様式のルール
自筆の遺言書を有効にするため守らなければならない「様式のルール」は、簡単にまとめるとコレだけ。
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詳しく見ると、こんな感じです。
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- サイズ:A4サイズ
- 模様等:記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの、罫線は問題なし
- 余白:上部5mm、下部10mm、左20mm、右5mmを最低限確保すること
※一文字でもはみ出していれば保管不可 - 用紙の片面のみに記載すること
- 各ページに、総ページ数とページ番号を記載すること(「1/2」「2/2」など)
- ホチキス止めや封筒は不要
- ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用すること
法務局のサイトに「遺言書の用紙例」があります。
遺言書の用紙例
もちろん、無地の用紙や市販の便箋などでも構いません。
自筆証書遺言の書き方のルール
自筆の遺言書を有効にするため守らなければならない「書き方のルール」は、簡単にまとめるとコレだけ。
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詳しく見ると、こんな感じです。
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- 遺言書の全文を遺言者が自書する
別紙で財産目録を添付する場合には、財産目録はコピーやパソコンなどでの作成も可能。
ただし財産目録はすべてのページに署名捺印が必要 - 遺言の作成年月日は具体的に記載
・「◯月吉日」は不可 - 遺言者氏名は、戸籍どおりの氏名(外国籍の方は公的書類記載のとおり)
・ペンネームはいくら周知のものであっても不可 - 遺言者が押印すること
・認印でも可 - 訂正や追加は,その場所が分かるように示した上で,訂正又は追加した旨を付記して署名し,訂正又は追加した箇所に押印
自筆証書遺言の書き方文例
全財産を特定の相手に相続させる場合
遺言者 鈴木太郎は、本遺言書により次のとおり遺言する。
第1条 遺言者の有するすべての財産を、遺言者の妻である鈴木花子(昭和40年1月1日生)に包括して相続させる。
私の遺言書はこのパターン。
財産目録や詳細は、遺言書は一切入っていません。
夫には私の財産目録を渡しているので、「全財産」がどこにあるのかわかるようにはなっています。
財産の一部を、特定の相手に相続させる場合
遺言書
遺言者 鈴木太郎は、本遺言書により次のとおり遺言する。
第1条 遺言者は、遺言者の有する別紙1の不動産を遺言者の妻 鈴木花子(1960年1月1日生)に相続させる。
第2条 遺言者は、遺言者の有する別紙2の預貯金を、遺言者の長男 鈴木一郎(1985年2月2日生)、遺言者の次男 鈴木次郎(1990年3月3日生)に各2分の1の割合で相続させる。
第3条 遺言者は、この遺言の執行者として遺言者の長男 鈴木一郎を指定する。
2024年4月1日
東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号
鈴木太郎 ㊞
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本文は自筆ですから、文言が多くなれば多くなるほど、誤字脱字などの可能性が高くなります。書き直すのが大変になりますので、下書きをして、集中して取り組まないと大変です。。
財産の一部を、特定の相手に遺贈する場合
遺言書
遺言者 鈴木太郎は、本遺言書により次のとおり遺言する。
第1条 遺言者は遺言者の有する財産の全部を換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し、公租公課を支払い、かつ、遺言の執行に関する費用、葬儀・埋葬の費用を控除した残金を、下記の者に遺贈する。
記
住所 東京都〇〇区〇〇2丁目2番2号
名称 動物愛護協会
第2条 遺言者は、この遺言の執行者として次の者を指定する。
記
住所 東京都〇〇区〇〇3丁目3番3号
名称 △△総合法律事務所
2024年4月1日
東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号
鈴木太郎 ㊞
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財産目録の作成
財産の詳細は、本文に記載しても構いませんし、別紙として遺言書に付け加えることもできます。
全ての財産を明記する必要はありませんが、特定の相手に特定の財産を残す場合には、間違いなくわかるように記載する必要があるでしょう。
遺言書を書くときの疑問を整理
遺言執行者は必要?
遺言執行者とは?
「遺言執行者」とは、その言葉通り、遺言を執行する人です。
遺言執行者には、相続財産の管理や遺言の執行に必要とされる全ての行為をする権利と義務があります。
遺言に財産の遺贈について記載されていた場合、遺言執行者は遺贈の手続きを単独で行うことができます。
遺言者が決めることができるので、相続人の中から一人決めておくといいですが、必ずしも記載が必要なわけではありません。
遺言執行者になれるのは?
遺言執行者は、未成年や破産者でない限り誰でもなれます。もちろん、弁護士や行政書士などの法人でもなれます。
遺言執行者の指定がない場合には?
遺言執行者がいない場合は、相続人が遺言を執行します。
相続人が複数いる場合には、遺言の執行(名義変更や口座解約等)に際し、他の相続人全員の戸籍謄本等が必要になることもあります。
他の相続人全員の手間が協力を得なければならないため、遺言の執行がスムーズに進まない可能性もあります。
相続人が一人の時でも遺言執行者は必要?
相続人が一人であれば、その相続人が遺言を執行することになるので、必ずしも指定しなければならないものでもありません。
遺言執行者を指定してしておく方がいいケース
- 相続人が複数いる
- おひとり様で相続人がいない
- 相続人が高齢や病気等で手続きが困難
- 外国在住の相続人がいる ← 書類の取り寄せ等が大変です、、
- 相続人間で不満が生じそうな場合
- 相続人以外に財産を遺贈する
「遺留分」には要注意
法定相続人が複数いる場合には、「遺留分」に注意しなければなりません。
遺留分とは?
「遺留分」とは、相続人が主張すれば遺言内容に関わらず最低限はもらうことができる権利のことです。
例えば、妻・長男・次男と相続人が複数いるにも関わらず、「全財産を次男へ相続させる」などの遺言であれば、妻と長男は遺留分を侵害されている〜自分がもらえる権利を侵害されているわけですから、遺留分を主張する権利があるのです。
他の相続人の遺留分を侵害する遺言書は、トラブルにつながるので注意が必要です。
遺留分は、遺留分算定基礎額と呼ばれる遺産総額に過去の一定の贈与を加算し、債務を控除した額の2分の1、または3分の1(法定相続人が被相続人の親や祖父母のみである場合)と民法で定められています。
相続人が複数いたり、遺言内容によって揉めそうな場合には、弁護士などの専門家に依頼し公正証書遺言を作成する方がいいでしょう。
遺留分を侵害したら?
例えば、法定相続人が妻・長男・次男の3名いるにも関わらず、次男に全財産を相続させる旨の遺言書であった場合には、妻と長男がもらえる権利が侵害〜遺留分を侵害されています。
この場合でも、遺言書が無効になるわけではありません。次男に全財産を相続させる遺言書は有効であり、相続が発生すると、実際に次男が全財産を取得します。
しかし、遺留分を侵害された妻と長男は、次男に対して「遺留分侵害額請求」ができます。
「遺留分侵害額請求」とは、侵害された自分の遺留分相当額を金銭で支払うよう請求することです。
次男は、侵害した遺留分相当額の金銭を支払う必要があります。
遺産のほとんどが預貯金であれば、金銭で支払うことに問題は生じないでしょうが、不動産や株などであれば、不都合も生じます。なにより、そんな請求を家族間で行うだけで、もうドロドロの世界です。
穏やかではありませんので、遺留分侵害になるような遺言書にならないよう十分気をつけなければなりません。
遺言書には全財産の記載が必要?
特定の財産を、特定の人物に相続させる/遺贈する場合には、その財産を明記する必要がありますが、「特定」でない場合には財産を記載しなくても構いません。
例えば、「不動産Aは妻に、不動産Bは長男Cに相続させる」ような場合には、不動産のA/Bの明記が必要ですが、全財産を特定の人に相続させる/遺贈するような場合などは、明記不要です。
法務局は全財産を確認する?
法務局では、遺言書の形式や財産目録は確認しますが、記載内容の有効性や記載事項以外を確認することはありません。
遺言書本文や財産目録からは判断のつかない誤記や、書き損じ、記載漏れなどに関しては、法務局が関与するところではなく、あくまで自己責任です。
書かなくてもいいことは、書かなくてもいいのです。
私は「全財産を夫に」としたので、財産の詳細は1つも記載していません。
不動産など登記してあるものはともかく、それ以外はあまり書きたくないというのが、正直なところですが、、
法務局は相続人のことも確認する?
遺言書には、相続人を記載できますが、法務局では相続人の身元確認などは行いません。相続人の住民票などを添付するわけではありませんので、誤記があったとしても法務局が関与するところではありません。
相続人や財産に関しての記載は、自己責任です。
相続開始時までに財産がなくなった場合は?
遺言書を財産を明記し作成した後、相続開始までにその財産がなくなる場合もあります。
例えば、財産の一つとして記載した不動産を手放す、記載した銀行口座を解約するような場合。そのようなケースでは、失われた財産に関する遺言が部分的に無効になるだけで、他の部分は有効となります。
法務局に保管した遺言書は絶対に有効?
法務局では、保管する遺言書の形式などを確認しますが、内容に関しては確認しません。保管制度を利用しても、遺言書の内容に問題があれば、無効になる可能性もあります。
自筆証書遺言が有効か無効かわかるのは、遺言者本人の死亡後です。
法務局の保管制度を利用すれば、形式的なミスは避けられます。
簡潔な遺言内容であれば、さほど心配はなさそうですね。
遺言書の保管にかかる手数料
2024年5月現在の手数料です。
手続名 | 手数料額 | 手続のできる方 |
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遺言書の保管の申請 | 申請1件(遺言書1通)につき3900円 | 遺言者 |
遺言書の保管の申請の撤回 | 無料(手数料不要) | 遺言者 |
遺言者の住所等の変更の届出 | 無料(手数料不要) | 遺言者 |
遺言書の閲覧の請求(モニターによる) | 1回につき1400円 | 遺言者/関係相続人等 |
遺言書の閲覧の請求(原本) | 1回につき1700円 | 遺言者/関係相続人等 |
遺言書情報証明書の交付請求 | 1通につき1400円 | 関係相続人等 |
遺言書保管事実証明書の交付請求 | 1通につき800円 | 関係相続人等 |
申請書等・撤回書等の閲覧の請求 | 申請書等1件又は撤回書等1件につき1700円 | 遺言者/関係相続人等 |
手数料の納付方法
納付方法は、収入印紙です。手続きを行う遺言書保管所(法務局)や郵便局で購入することができます。
要件等は並べるとたくさんありますが、遺言の内容によっては極めて簡潔に書くこともできます。遺言内容が少なくて済む方には、自筆証書遺言の保管制度は便利だと思います。