「つまづく」「つまずく」どっちが正解?〜「ず・づ」「じ・ぢ」の使い分け、覚えておきたい現代仮名遣いの基本ルール
「あれ?『つまづく』だっけ?『つまずく』だっけ?」
変換予測があるとはいえ、入力する時に悩ましいのが「ず」と「づ」や「じ」と「ぢ」の使い分け。この使い分けには基本ルールがあるため、簡単にまとめておきます。
「ず・づ・じ・ぢ」の使い分けは文化庁「現代仮名遣い」が基本ルール
「ず」と「づ」、「じ」と「ぢ」。
これらの使い分けは、文化庁が定める「現代仮名遣い」に基づきます。
戦前まで用いられた「歴史的仮名遣い」では、現在の「ず」や「じ」と発音される音の多くが「づ」や「ぢ」と書かれていました。これは、平安時代中期ごろの仮名遣いを元にしたものです。
1946年(昭和21年)、教育をより効率的にし、国民の生活レベルを高めることを目的として、内閣告示で「現代仮名遣い」が制定されたことにより、表記の原則が大きく変わりました。
「現代仮名遣い」の基本的な考え方は、非常にシンプルです。
それは、「発音どおりに書く」ということ。この原則を頭に入れておくと、多くの表記の迷いが解決できます。
「つまづく」と「つまずく」:現代仮名遣いでの正しい表記と歴史
早速ですが、「躓く」は、現代の日本語表記として正しいのは「つまずく」。
現代仮名遣いでは、発音どおりに書くのが基本です。実際に「つまずく」と発音するから、「つまずく」と書くのが正しいとされます。
でも、「つまづく」と言う表記を目にすることもあります。
この「つまづく」は「歴史的仮名遣い(旧仮名遣い)」の名残や、発音の感覚によるものです。
「ず」と「づ」の使い分け:原則と例外
「現代仮名遣い」の原則は「発音どおりに書く」ことですから、特別な理由がない限り、濁音は「ざ行(ざ、じ、ず、ぜ、ぞ)」で表記されます。

原則:多くの場合「ず」を用いる
特別な理由がない限り、「ず」を用います。
【「ず」を用いる例】
- 水 みず
- 頭痛 ずつう
- 東 あずま *「あづま」も可
- 静か しずか
- いずれ
元は二語からできている場合、例外として「づ」の表記となりますが、現代語では二語に分解しにくいもの等は、「ず」を用いて書くことが基本となっています。
【現代語では二語に分解しにくい言葉は「ず」の例】
- いなずま(稲妻) *「いなづま」も可
- かたず(固唾)
- きずな(絆)
- さかずき(杯)
- ほおずき
- みみずく
- ゆうずう(融通)
- うなずく (頷く)
- おとずれる(訪れる)
- つまずく(躓く) かしずく ぬかずく ひざまずく
- さしずめ
- なかんずく
- でずっぱり
- うでずく(腕尽く)
- くろずくめ(黒ずくめ)
- ひとりずつ 〜ずつ
また、動詞や形容詞の活用形の一部にも「ず」が用いられます。これは、打ち消しや打ち消しの状態を表す際に頻繁に登場します。
【動詞・形容詞の活用形における「ず」の例】
- 行かず(いかず):行かない
- 見えず(みえず):見えない
- 分からず(わからず):分からない
- ~せず:動詞「する」の連用形に付く形 例:勉強せず
- あらず:古語の「あり」の打ち消し、現代語の「ない」に相当
例外:「づ」を用いるケース
「発音どおりに書く」のが原則ですが、「づ」を用いる例外的な表記が存在します。文化庁の「現代仮名遣い」でも、具体的に示しています。
同音の連呼によって濁音となった場合
同音の連呼、つまり同じ音、またはよく似た音が繰り返される中で、後ろの音が濁音になる現象「連濁(れんだく)」では、「づ」と表記します。
【「づ」を用いる連濁の例】
- つづみ(鼓)
- つづら
- つづく(続)
- つづる(綴)
二語の連合によって濁音となった場合
元々独立した二つの単語が結びついて一つの単語になったときに、後ろの単語の最初の音が濁音になる場合も、元の単語の音を考慮して「づ」が使われます。
【「づ」を用いる二語の連合の例】
- 仮名遣い(かなづかい):「かな(仮名)」+「つかい(使い)」
- お小遣い(おこづかい):小さな事に使うお金
- 小包(こづつみ):「こ(小)」+「つつみ(包み)」
- 竹筒(たけづつ):「たけ(竹)」+「つつ(筒)」
- 手綱(たづな):「た(手)」+「つな(綱)」
- 横綱(よこづな):「よこ(横)」+「つな(綱)」
- 手作り(てづくり):「て(手)」+「つくり(作り)」
- 粘り強い(ねばりづよい):「ねばり(粘り)」+「つよい(強い)」
- 道連れ(みちづれ):「みち(道)」+「つれ(連れ)」
- 片付ける(かたづける):片を付ける
- 月々(つきづき):「つき」という音が繰り返され、後ろが濁音化
常々(つねづね)、つくづく、徒然(つれづれ)
たづな・よこづな・いなずまの違い
たづな(手綱)、横綱(よこづな)、稲妻(いなずま)。なんとなく音が似ていますが、イナズマだけ「ず」です。
いずれも、「二語の連合によって濁音となった場合」に当てはまりそうな感じですが、二語に分けた時のわかりやすさ、言葉の構成の明瞭さに違いがあります。
- たづな(手綱):馬を操るために騎乗者が手に持つ紐のこと
- よこづな(横綱):横にした綱を腰に締めていることから「横綱」の名称が生まれたとされている
- いなずま(稲妻):語源は「稲の夫(つま)」
稲妻の語源である「稲の夫(つま)」ですが、昔の人は、稲を実らせるのに雷が重要な役割を果たすと考え、豊作をもたらす雷を「稲の夫(つま)」と呼びました。昔は、「つま」は「夫」や「伴侶」を意味し、男女両方を表していました。後に、「夫」から「妻」に表記が変化し「稲妻」になったとされています。
手綱や横綱と違い、稲妻は二語に分けて「稲」+「妻」にしても、現代では意味がよくわかりません。言葉の構成が不明瞭なのです。そのため、発音に近い「ず」で表記されるのです。
ただ、この語構成の明瞭さは人によって受け止め方が異なります。
そのため、「稲妻」は「いなずま」と書くのを本則としながらも、「いなづま」と「書くこともできるものとする」、と内閣告示に明記されています。
「じ」と「ぢ」の使い分け:原則と例外
「現代仮名遣い」の原則は「発音どおりに書く」ことですから、特別な理由がない限り、濁音は「ざ行(ざ、じ、ず、ぜ、ぞ)」で表記されます。「ず」と「づ」と同様に、「じ」と「ぢ」にも原則と例外のルールがあります。
原則:多くの場合「じ」を用いる
特別な理由がない限り、「じ」を用います。
【「じ」を用いる例】
- 地震(じしん)
- 布地(ぬのじ)
- 時間(じかん)
- 感じる(かんじる)
- 冗談(じょうだん)
- 数字(すうじ)
例外:「ぢ」を用いるケース
「づ」と同様に、「ぢ」を用いる例外も存在します。こちらも「現代仮名遣い」で明記されています。
同音の連呼によって濁音となった場合
同音の連呼、つまり同じ音、またはよく似た音が繰り返される中で、後ろの音が濁音になる現象「連濁(れんだく)」では、「ぢ」と表記します。
【「ぢ」を用いる連濁の例】
- 縮む(ちぢむ)
ちぢみ(縮) ちぢれる ちぢこまる - 近々(ちかぢか)
- ちりぢり
二語の連合によって濁音となった場合
二つの単語が結びついて一つの単語になったときに、後ろの単語の最初の音が濁音になる場合です。
【「ぢ」を用いる二語の連合の例】
- 鼻血(はなぢ):「はな(鼻)」+「ち(血)」
- 底力(そこぢから):「そこ(底)」+「ちから(力)」
- 入れ知恵(いれぢえ):「いれ(入れ)」+「ちえ(知恵)」
- 間近(まぢか):「ま(間)」+「ちか(近)」
- 茶のみ茶碗(ちゃのみぢゃわん):「ちゃのみ(茶のみ)」+「ちゃわん(茶碗)」
- 世界中(せかいぢゅう):「せかい(世界)」+「ちゅう(中)」
* 現代では「せかいじゅう」と書かれることの方が多い
【例外における注意点】
「世界中(せかいぢゅう)」のように、例外に該当するにもかかわらず、「じ」で書かれることが一般的になっている言葉もあります。

「ぢ」を使うのは、「づ」以上に限られていますね。
これも「発音どおりに書く」という原則が浸透した結果と言えるでしょう。
「現代仮名遣い」では「発音通り」を原則とした背景・理由
「現代仮名遣い」では「発音通り」を原則としています。
この背景には、戦後の混乱期における教育改革と、日本語の読み書きをより効率的にしたいという強い願いがあったからとされています。
歴史的仮名遣いとの対比
「現代仮名遣い」が導入される以前は、「歴史的仮名遣い(旧仮名遣い)」が用いられていました。
歴史的仮名遣いは、平安時代以来の日本語の音韻変化の過程を反映した表記体系です。
例えば、「蝶(ちょう)」は「てふ」、「今日(きょう)」は「けふ」と書くなど、表記と実際の発音が大きく乖離している言葉もありました。
「づ」と「ず」、「ぢ」と「じ」についても同様です。
例えば、「水」は「みづ」、「鼻血」は「はなぢ」でした。発音は同じ「ズ」「ジ」でも、語源や歴史的経緯によって書き分けが必要だったため、覚えるべきことが非常に多かったのです。
現代仮名遣いの目的
複雑な歴史的仮名遣いは、識字率向上を目指す戦後教育において大きな障害となりました。子供たちが学校で文字を学ぶ際、発音と異なる表記を一つ一つ覚えるのは非常に困難だったのです。
そこで、「現代仮名遣い」が導入し、現代の日本語をひらがなやカタカナで書き表す際の基準を示したのです。その主な目的は以下の通りです。
- 読み書きの簡素化:発音と表記を一致させることにより、読み書きを簡素化
- 教育上の負担軽減:発音と表記を一致させることにより、子ども達の学習負担を軽減
- 表記の統一:個人によって表記が異なることを避け、日本語全体の表記を標準化
- 生活能率の向上:表記が統一されることで、文章の作成や理解がスムーズになり、社会生活における効率が向上
- 文化水準の向上:表記が統一されることで、教育や社会生活の負担を軽減し、国民全体の文化的なレベルを向上
これらの目的を達成するために、「発音どおりに書く」というシンプルな原則が採用されたのです。
現代でも混乱が生じる理由
しかし、それでもなお「づ」と「ず」、「ぢ」と「じ」の使い分けに混乱が生じることがあります。
次のような理由が考えられます:
歴史的仮名遣いの名残
古い文献や、過去の作品では歴史的仮名遣いで記されています。
伝統文化や歴史的作品などに触れる機会が多いと、現代仮名遣いで表記する際に混乱が生じやすくなる 可能性があります。
例外に当てはまらない例外
今回の「躓く」はの語源は、爪突く(つまづく)です。「爪が段差や障害物にぶつかって身体が前によろける」という意味からきています。
語源から考えると、「爪」+「突く」の「二語の連合によって濁音となった場合」に該当するはずなのですが、「躓く」が当てられたことによって、現代仮名遣いでは「つまずく」と表記します。
「躓く」は、爪があたり身体がよろけるという具体的な行為を描写する「爪突く」から、その行為によって生じる「困難に直面する」「失敗する」といった抽象的・比喩的な意味合いまで含む「躓く」とすることで、より広範な意味を表現できるようになりました。
言葉の意味まで変わっているのですから、例外には当たらない、、という例外の例外になり、混乱が生じるのです。
悩んだときの解決策
まずは「じ」「ず」で書くことを考える
例外はありますが、基本は発音通りに書きます。
例外に該当するかを確認
「ず」と「づ」、「じ」と「ぢ」の例外は共通した考え方があります。
- 同音の連呼(連濁)によって濁音になる
- 二語が連合して濁音になる
いずれかに該当すれば、「づ」や「ぢ」になる可能性が高いです。



日本語は正しく使いたいとは常々思っていますが、時代とともに変化するもの。なんだかな、、など思う言い回しもありますが、時代の流れかと割り切っていいものか、日本の端っこで頭を悩ませています。





