シニア世代とペットの暮らし〜長寿化、介護、飼育費用、飼育困難になる前にできること
シニア世代が犬や猫などのペットを飼うことで、健康寿命が伸びたり、精神的な安定したり、人との出会いや交流につながったりと、そのメリットは広く知られるようになりました。
実際、朝や夕方には、犬の散歩をしているシニア世代はよく見かけますし、飼い主同士がおしゃべりをしたり、犬と触れあい会話をしていく歩行者もよく見かけます。
一方で、飼育環境の向上から、犬や猫の長寿化・高齢化、シニア世代が高齢のペットのお世話をする老老介護、ケガや病気による飼育困難などの問題もあります。
楽しい話ではありませんが、なにかと「自己責任」で括られる今の日本では、シニア世代がペットを飼育することのリアルを知っておく必要もあります。データとともに簡単にまとめておきます。
シニア世代のペット飼育や飼育意向のリアル
飼育率・総飼育頭数ともに犬は安定の減少傾向、猫は横ばい
一般社団法人ペットフード協会の調査で、犬・猫の飼育率や総飼育頭数が公表されています。
令和5年 全国犬猫飼育実態調査
犬は、飼育頭数、飼育率ともに安定の減少傾向。10年間で、飼育頭数は190万頭の減少、世帯飼育率も3.7%の減少です。新規飼育数も減少傾向でしたが、2020年に増加。以降は微増減を繰り返しています。
一方、猫の飼育頭数はこの10年間で66万頭増えていますが、新規の飼育頭数は2021年をピークに減少。飼育頭数の増加は、猫の寿命が伸びていることも影響していると言えるでしょう。
シニア世代の飼育意向の減少傾向
シニア世代の健康維持やモチベーションアップ、QOL向上という点でも効果的とされるペットですが、実際にはシニア世代の飼育意向は減少傾向にあることが、一般社団法人ペットフード協会の調査からわかります。
年齢 | 2019年 | 2023年 | |
---|---|---|---|
犬 飼育率 | 60代 | 13.2% | 10.9% |
70代 | 10.4% | 8.2% | |
犬 新規飼育意向 | 60代 | 8.5% | 6.1% |
70代 | 7.3% | 5.8% | |
猫 飼育率 | 60代 | 10.2% | 10.2% |
70代 | 7.9% | 7.7% | |
猫 新規飼育意向 | 60代 | 5.3% | 4.4% |
70代 | 4.0% | 3.4% |
男女差や、子供の有無、単身かどうかによって、多少の差はあるとはいえ、全体としては減少傾向です。
シニア世代がペットを迎え入れることのメリットが取り上げられることも多く、広く知られるようになってきていますが、実際にはなかなか難しい。その理由には、ペットの長寿化や飼育費用の高騰も挙げられます。
人間だけじゃない、犬猫の長寿化と介護
犬も猫も平均寿命が14歳を超えている!?
『アニコム』が、世界のペット保険会社公表データからの調査結果(2023年12月時点)として、家庭で飼われている犬と猫の平均寿命を公開しています。
なんと、犬の平均寿命は「14.2歳」、猫は「14.7歳」。犬も猫も長寿です。
家庭どうぶつ白書 2023
犬・猫の他、鳥、うさぎなどの動物の平均寿命、疾患統計、診療費などの統計がPDFでダウンロードできます。
犬猫の長寿化とシニア世代の老老介護
犬や猫のペットの長寿化、高齢化の背景には、飼育環境の改善や、ペットフードの改良による栄養面の向上、動物医療の発達など、環境の変化が大きく関与しています。
人間も高齢になると生活援助や介護が必要になるケースが多いのと同様に、ペットも高齢になれば介護が必要になるケースも珍しくありません。
トイレが上手にできない、食事の介助が必要になる、寝たきりになる、視力や聴力の衰え、病気になる、、そうなると高齢者(人間)が高齢ペットの老老介護をすることもあるのです。
ペットの介護や日常的なお世話ができなくなる、飼育困難になる可能性があるのは、シニア世代だけではなく、全世代共通でいえることです。飼い主がケガや病気で飼育困難になる可能性もありますし、若い世代では、仕事の都合でどうにもならなくこともあるでしょう。
ただ、10年以上前の発表された、「 犬の飼育放棄問題に関する調査から考察した飼育放棄の背景と対策 」 では、飼育放棄のおよそ半数が60代以上のシニア層(60代が31.5%、70代が24.8%)という結果が発表されています。
もちろん、突発的なケガや病気もありますが、飼い主側の高齢化も飼育放棄の理由です。
家族や知人・友人にお世話をお願いできればいいのですが、10数年後に待ち受けるペット介護への現実的対応を見据えた上で、ペットを迎え入れる必要がありそうです。
飼育困難や飼育放棄は、シニア世代だけの問題ではなく、あらゆる世代に言えることです。本来であれば、社会全体として解決することが理想なのでしょうが、今の日本では基本的に「自己責任」の扱いです。
なお、老犬ホームといった、ペットの介護施設もありますが、月額5〜6万円程度の費用がかかります。飼育放棄は避けられますが、費用負担が大きくなりますので、経済的な余裕がないと難しいでしょう。
知っておきたい飼育費用のリアル
アニコムの「家庭どうぶつ白書 2023」では、犬と猫の年間飼育費用の平均を算出しています。
年間飼育費用〜犬の平均は35万、猫の平均は16万円!?
フードやおやつ、洋服、シャンプーなどへの出費次第で、飼育費用に大きな差が出ます。都市部と田舎/郊外などのエリアによっても差が出ますが、大手ペット保険のアニコムの調査によるデータですから、参考になる金額と言えるでしょう。
中央値ではなく、平均値です。特に、犬は犬種や年齢によって10万以上の差があります。
- トイ・プードル 371,962円
- チワワ 268,497円
- 柴 310,288円
- ミニチュア・ダックスフンド 327,205円
犬種によって、トリミングやフード・おやつ代、飼育に伴う光熱費には差が出ます。小型犬と、大型犬でも異なります。
他にも、年齢によって大きなさが出るのが「診療費」。
犬と猫の診療費のリアル〜犬猫も高齢になると診療費は上がり続ける
年齢ごと年間診療費の中央値と平均値の推移も公開されています。
犬が1歳のときの年間診療費は平均で「50,956円」ですが、15歳になると「239,810円」と、4.7倍。中央値であれば1歳時「21,910円」、15歳時が「164,450円」。
平均との差が大きいのは、疾患や入院・通院・手術の有無、犬種によって、診療費用の差が大きいからでしょう。
猫の1歳時の年間診療費は「40,593円」ですが、15歳になると「181,132円」と、4.5倍。中央値であれば1歳時「15,510円」、15歳時が「104,093円」。
飼育費用は今後も高騰傾向
原料高騰や円安の影響もあり、あらゆるものが値上がりしていますが、ペット関連も同様です。フードやおやつ、日用品なども、値上がりしています。
加えて、犬・猫の飼育頭数は減少傾向、人間以上とも言えるペット愛の激化もありますので、飼育費用の高騰は今後も続くでしょう。
1つの準備としてできること〜遺言書のやペット信託の利用
ペットのお世話放棄は違法で罰則対象
シニア世代の中には、数十年前のペット事情からアップデートされないまま「たかがペット」感覚の方もいるかもしれませんが、時代は変わっています。
必要な世話を怠ったりケガや病気の治療をせずに放置したり、充分な餌や水を与えないことは「ネグレクト」と呼ばれますが、動物虐待にあたります。「動物愛護及び管理に関する法律」により、罰則の対象です。
愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
動物愛護及び管理に関する法律 四十四条
違法行為とか、罰則云々ではなく、生き物を飼う側のモラルの問題ですね。
ペットのための遺言や信託の利用
相手(ペット)も飼い主側も生き物です。未来はあまりに曖昧であり、先の不安ばかりを気にしていては何もできません。
犬や猫を迎える際、あるいは既に犬や猫と暮らしていても、先のためにできることもあります。
ペットのための遺言を残す
自分の死後、どなたかに譲るのであれば、相手を決め、相手からも承諾を得て、その旨遺言書に記しておくことができます。
自分の財産から、ペットを預ける施設への支払いをする、ペットを譲る相手にお世話代として遺産の一部を譲る、といったことも遺言書に記しておくことが可能です。
遺言書を書ききちんとした形で残すこと自体は難しくありません。多少手間はかかりますが、心身ともに余裕のあるうちに作業しておくことをオススメします。
ペット信託を利用する
信頼できる第三者に財産を託して、ペットのお世話をお願いすることもできます。
これは信託契約に基づきますので費用はかかりますが、飼育条件を指定したり、 信託監督人をつけることで適切にお世話がされているのか確認してもらうことができます。
それでも、ペットは人生に喜びを与えてくれる
犬を飼うと健康寿命も伸び、心豊かに幸せに暮らせることは、科学的に証明されています。
犬ばかりが注目されがちですが、猫も同様です。
猫の場合には、犬のように朝晩の散歩は基本的にありませんので、運動量の増加にはならないかもしれませんが、血液中の愛情ホルモンであるオキシトシンの濃度があがり、幸福感に満たされます。結果、ストレスも下がり、QOLが向上します。
アメリカのミネソタ大学心臓病研究所のアドナン・クレシ博士のグループが1976〜1980年の間に、4.435名の患者の調査をしたところ、猫の飼い主は心臓発作を起こす可能性が30パーセント低いということが報告されています。
10数年後の老老介護や、日常的な費用など気になることはありますが、それ以上の幸せや喜びを人生にもたらしてくれることは、間違いないでしょう。
私個人は犬派。色々大変なこともありましたが、犬と暮らすことは私たち家族に変えがたい大きな幸せをもたらしてくれました。
今は、仕事の都合で飼えませんが、また時期がきたら、犬と暮らせたらいいなとは思っています。