国内旅行者の増加と、訪日外国人観光客/インバウンドの激増で、民泊は注目を集めています。
民泊であれば、参入障壁も低く、空いている部屋を貸し出すことで収入も得られることもあり、ますます広がっていくことは間違いありません。
訪日外国人旅行者も、「モノ消費」から「コト消費」へシフトしています。古民家のような、日本家屋への宿泊体験は、今後ますます人気が高まるはずです。
また、円安の影響もあり、アジア圏やイスラム圏からの観光客も増えています。
家族で来日することも多いのが特徴です。3世代や複数人の子供たちも同行するため、1グルーブ(1家族)の人数が多い傾向があります。ホテルよりも民泊の方が安く、食事などの自由度が高いことから、都市部でも民泊が人気です。
世界的な大きな変化でもなければ、しばらくはこの状況も続きそうです。
古民家や空き家、自宅で民泊を始めるのは、難しいことではありません。民泊の種類や条件、必要な整備などを簡単にまとめておきます。
民泊の「1棟貸し」と「部屋貸し」
現在、日本で登録されている民泊の多くは都市部に立地しています。そのため、マンションの1室や、戸建て住居の1室を貸す「部屋貸し」も人気です。宿泊客は、その宿/部屋に泊まることを目的とするよりも、観光するための拠点として宿泊することが多いです。
一方、地方/郊外や田舎では「1棟貸し」が基本と考えるといいでしょう。
気の利いたホテルなどの宿泊施設が近くにない、日本の原風景的田舎、建物そのものが魅力の古民家など、日本人観光客にとっても、訪日外国人観光客にとっても、その宿に泊まること自体が目的となります。
この目的を読み間違えると、宿泊客にとっても、家主(貸主/事業者側)にとっても、不幸とまでは言いませんが、不満に繋がります。
貸主側としては、宿泊客の目的をよく考え、それに見合った設備を整えておく必要があるのです。
民泊には3種類もある!?
ざっくり「民泊」と一括りにされますが、民泊には3種類あります。それぞれ、許認可申請や条件、制限等異なります。
新法民泊 | 簡易宿所 | 特区民泊 | |
---|---|---|---|
法律 | 住宅宿泊事業法 | 旅館業法 | 国家戦略特区法 |
所管省庁 | 国土交通省 厚生労働省 観光庁 | 厚生労働省 | 内閣府 (厚生労働省) |
許認可等 | 届出 | 許可 | 認定 |
住宅専用地域での営業 | 可能 条例により制限されている場合あり | 不可 | 可能 |
営業日数の制限 | 年間提供日数 180日以内 ※条例で実施期間の制限が可能 | 制限なし | 2泊3日以上の滞在が条件 |
宿泊者名簿 作成・保存義務 | あり | あり | あり |
玄関帳場 設置義務 | なし | なし | なし |
最低床面積 | 最低床面積あり (3.3 ㎡/人) | 最低床面積あり | 原則 25 ㎡以上/室 |
衛生措置 | 換気、除湿、清潔等の措置、定期的な清掃等 | 換気、採光、照明、防湿、清潔等の措置 | 換気、採光、照明、防湿、清潔等の措置、使用の開始時に清潔な居室の提供 |
非常用照明等の安全確保の措置義務 | あり 家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は不要 | あり | あり 6 泊 7 日以上の滞在期間の施設の場合は不要 |
消防用設備等の設置 | あり 家主同居で宿泊室の面積が小 さい場合は不要 | あり | あり |
近隣住民とのトラブル防止措置 | 必要 宿泊者への説明義務、苦情対応の義務 | 不要 | 必要 |
不在時の管理業者への委託業務 | 規定あり | 規定なし | 規定なし |
立地規制 | なし 住宅扱い | あり | 区域計画に定める |
わかりにくいのですが、簡単にまとめると↓
【新法民泊】届出で始める古民家民泊〜住宅宿泊事業
上述の通り、新法民泊では、届出をし、必要な設備を整えれば、住宅宿泊事業を始めることができます。スタートのハードルは、ちょっと面倒なくらいで高くはありません。
ただし、新法民泊で提供できるのは、あくまで日常生活で使用している「住宅」です。細かく見れば、必ずしも「今」居住している必要はなく、自分の別荘/セカンドハウスのようにすぐに生活できる物件、居住者を募集中の空き物件、実家のようにかつて生活していた人がいる、などの条件もあります。
要は、「事業用の不動産」では認められませんので、本格的ビジネスとしての運用は難しく、副業向きです。
今の我が家は、築古マンションですが、管理規約に「民泊禁止」とバキッと記載されています。
家主不在・空き家でも民泊運営ができる
「住宅宿泊事業者」とは、「旅館業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる、住宅宿泊事業を営む者」と定義されています。
都道府県知事への届出が必要、年間提供日数は180日以内制限がありますが、必ずしも在宅していなければならないわけではありません。
家主居住型
ホームステイのように、自宅の空いた部屋を利用し、民泊を運営。宿泊客の滞在中は、届出住宅に在宅していることが前提です。
【家主居住型(半居住型)民泊のメリット】
- ゲストとコミュニケーションができる
- 自主管理できるので管理費などのコスト削減になる
- 住宅ローンを利用して民泊物件を購入できる
【家主居住型(半居住型)民泊のデメリット】
- 民泊に利用できるスペースが限られる
- プライバシーの確保が難しい
- 防犯上の対策が必要
- 宿泊者滞在中に、自宅を不在にしてもよい時間が原則1時間以内
家主不在型
遠隔地にある実家、セカンドハウス、別荘、賃貸住宅の空き部屋など、自宅以外の場所で民泊を運営。この場合には、住宅宿泊管理業者への委託が必要です。
管理業者への委託が必要ですので、コストはかかかりますが、セキュリティやプライバシーの確保を考慮すると、家主不在型の方が安全です。
【住宅宿泊管理業者とは?】
住宅宿泊事業者(家主)から委託を受け、報酬を得て、住宅宿泊管理業を営む者。国土交通大臣への登録が必要。
住宅宿泊事業 開業までの流れ
開業のざっくりとした流れです。
事業計画書の提出が必要なわけではありませんが、費用もかかるので、運営について考えるのは大切です。
【対象となる住宅】
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/target.html
①現に人の生活の本拠として使用されている家屋
②入居者の募集が行われている家屋
③随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋
・「台所」、「浴室」、「便所」、「洗面設備」の設備が必要
・マンション管理規約や別荘地などの管理会社等の規約で民泊が禁止されていないかの確認
・自治体の民泊条例で期間や地域の制定がないか確認
各自治体の窓口↓
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/municipality.html
・宿泊者の安全確保のため、消防法令を遵守
・消防法令の適合状況は、届出前に管轄の消防署に相談
消防庁パンフレット↓
https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/suisin/items/minp
aku_leaf_horetai.pdf
民泊の安全措置の手引き↓
https://www.mlit.go.jp/common/001294591.pdf
新法民泊は、原則として民泊制度運営システム(民泊ポータルサイト)を利用し、住宅の所在地を管轄する都道府県知事への届出をします。
住宅宿泊事業届出書に必要事項を記入、必要な添付書類を提出します。下記サイトからダウンロードできるものと、自分で用意するものとあります。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/regulation.html
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/proce
dure_doc.html
各自治体の条例や届出の相談窓口↓
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/municipality.html
細かくありますが、次のような書類が必要です。
- 届出書
- 住宅の図面
- 欠格事由に該当しない事の誓約書
- 転貸承諾書
- (法人)定款、登記事項証明書 等
インテリアや設備、表示、ガイドなどを整備します。ガイドは、日本語だけでなく、外国語を用いる必要もあります。
- 非常用照明器具を設置
- 避難経路を表示
- 設備の使用方法に関する案内
- 移動のための交通手段に関する情報の提供
- 火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内や、宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置
- 外国人観光客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置
- 周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項の説明
・騒音の防止のために配慮すべき事項
・ごみの処理に関し配慮すべき事項
・火災の防止のために配慮すべき事項
・その他届出住宅の周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項 - 宿泊者名簿の備付け等
他にも、寝具、テレビなどの家電、エアコン、Wi-Fi環境の整備、セルフチェックインできるような鍵の整備、キッチン使用可であれば食器や調理器具、なども必要です。
仲介業者への登録
・法律上の登録を受けた仲介業者もしくは旅行会社の仲介が必要
・民泊サービスの仲介を他人に委託する場合、住宅宿泊事業法上の登録を受けた住宅宿泊仲介業者又は旅行業法上の登録を受けた旅行業者を利用
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/mediation/list.html
開業後は、苦情等への対応、宿泊者の衛生の確保、都道府県知事等への定期報告、標識の掲示なども必要です。
【宿泊者の衛生の確保】
- 各居室の床面積は、宿泊者 1人当たり 3.3平方メートル以上を確保
- 届出住宅の設備や備品等については清潔に保ち、ダニやカビ等が発生しないよう除湿を心がけ、定期的に清掃、換気等を行う
- 寝具のシーツ、カバー等直接人に接触するものは、宿泊者が入れ替わるごとに洗濯したものと取り替える
【苦情等への対応】
- 周辺地域の住民からの苦情及び問い合わせには、適切かつ迅速に対応
- 深夜早朝を問わず、常時、応答又は電話により対応
- 宿泊者が滞在していない間も、苦情及び問合せに対応
- 誠実に対応することが必要
回答を一時的に保留する場合でも、相手方に回答期日を明示した上で後日回答する等の配慮が必要 - 滞在中の宿泊者の行為により苦情が発生している場合、当該宿泊者に対して注意等を行う
改善がなされないような場合には、現場に急行して退室を求める等、必要な対応を講じる - 住宅宿泊管理業務の委託する場合には、住宅宿泊管理業者に宿泊契約の解除の権限を予め与えておく
- 苦情及び問合せが、緊急の対応を要する場合には、必要に応じて、警察署、消防署、医療機関等の然るべき機関に連絡したのち、自らも現場に急行して対応
【都道府県知事等への定期報告】
- 住宅宿泊事業者は、届出住宅ごとに、毎年2月、4月、6月、8月、10月及び 12月の15日までに、それぞれの月の前2月について、知事や市区町に報告
・届出住宅に人を宿泊させた日数
・宿泊者数
・延べ宿泊者数
・国籍別の宿泊者数の内訳
【標識の掲示】
- 届出住宅ごとに、公衆の見やすい場所に、下図のような標識を掲示
【管理業務の委託】
住宅宿泊事業者は、次のような場合住宅宿泊管理業者に委託する必要があります。
- 届出住宅の居室の数が、5を超える場合
- 届出住宅に人を宿泊させる間、不在となる場合
読むだけでやる気が失せる感じもしますが、1つ1つクリアしていけば、難しいことではありません。
ガチな民泊経営なら簡易宿所に
古民家再生などで、建物だけでなく周辺環境もよく年間フルで稼働させたい、1棟貸しではなくゲストハウスのように複数の部屋を貸出したい場合には、「簡易宿所(しゅくしょ)」として営業許可を取る必要があります。
簡易宿所は、旅館業法に基づきます。申請や相談の窓口は、物件の所在地を管轄する保健所(支所)です。
地域や担当者によって見解は微妙に異なりますので、必ず、事前に保健所(支所)に相談してください。
旅館業法の許可までの流れ
詳しくは、厚生労働省の「簡易宿所営業の許可取得の手引き」でご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000307696.pdf
建物工事(リフォーム、リノベーション工事)の設計前に、保健所(支所)に相談することが肝心です。
住宅専用地域では営業できませんし、立地規制もあります。客室の延べ床面積、排水・入浴・洗面・トイレなどの設備条件もあります。
相談する際には、次のような書類を用意しておくといいでしょう。
- 施設の所在地
- 施設の図面
- 建築基準法への適合状況
- 消防法への適合状況
申請後に立入検査があります。営業開始予定日の1ヶ月前には提出が必要です。
- 許可申請書
- 営業施設の図面
- その他自治体が条例等で定める書類
- 旅館業営業許可申請手数料 22,000円分の収入証紙
提出した申請書類の審査があります。記載内容に問題があれば差し戻されますので、言われた通りに修正し再提出します。
書類の審査が通ると、完成した施設への立入検査があります。
日程調整の連絡があります。当日は、施設側の担当者も立ち会い、保健所(支所)の担当職員等が構造設備基準を満たしているかを現地で確認・検査します。
施設の確認検査で構造設備等が基準に適合していることが確認されると、営業許可書が交付されます。
申請から許可までの標準的な期間は数週間かかります。
地域や時期によっても異なりますし、差し戻し等あればさらに時間がかかります。
営業許可がおりると、営業開始できます。
個人で簡易宿所を運営するのは現実的か?
簡易宿所営業の許可取得は、新法民泊よりも難易度が高いです。
なにより、立地条件がありますので、まずは申請可能かどうかの確認が必要です。
施設の構造設備基準も細かく設定されていますし、建築基準法や消防法の遵守も必要です。
ゲストハウスのように、複数の部屋を貸し出す場合でも、個人や家族で運営/経営することも可能です。
自分で管理するのであれば、日常的に作業が必要ですし、人を雇う、外注するのであれば、それなりに費用もかかります。副業レベルの話ではなく、ビジネスとしてきちんと取り組む必要があります。
古民家等での1棟貸しであれば、施設や周辺環境で年間通して安定した集客が可能でなければ、年間提供日数を180日以内とし、新法民泊の範囲内で運営する方が無難そうです。
なお、地域によっては民泊特区、または民泊等小規模宿泊施設の普及拡大のための、開業に必要な改修費用等を補助する制度がある自治体もあります。そちらは物件を管轄する自治体(市町村)役場にてご確認ください。